きみは溶けて、ここにいて【完】
「……影君と、初めて会った日も、雨が降っていたんだよね」
「うん。土砂降りの、日だった」
「まさか、その人が、影君だなんて、思わなかった」
「……思われなくて、僕は本当によかったと思ってるんだ」
「そっか。……あのね、影君に、聞いてほしいことが、ある」
一歩前に足を出す。
向き合うようにして立ったら、影君がゆっくりと頷いた。
初めて、言葉にしようとしていること。
鎖で雁字搦めにして閉じ込めて、もうどうにもならないのに、手放せない過去。
目を閉じる。向日葵の残像が、目蓋の裏に浮かんだ。それから、また目を開いたら、月のような翳りをもつ、だけどどこまでも優しい顔をした影君がいた。
「……私ね、人を、すごく傷つけたことがある。とても、大切で、大好きだった人を、それだから、傷つけてしまったことが、あるんだ。詳しくは、ごめんね、言えないんだけど、とにかく、すごく、傷つけた」
私には、幼い頃からずっと仲の良かった幼馴染がいた。朔、という名前の、私の家に向かいに住んでいる中世的な顔立ちをした男の子だった。