きみは溶けて、ここにいて【完】
朔とは、そこから少しずつ疎遠になっていった。
だけど、家の近くで会ったときに、「別れた。まだ、文ちゃんは俺のこと気持ち悪い?」と言われて、ああ、本当に私は取り返しのつかない間違いをしてしまったんだと分かった。
私が、彼の心も秘密も粉々にした。
それから、しばらくして、朔は、学校にも来なくなった。どうしてか、理由は知らない。聞けるわけがなかった。
知らないから、全部、私のせいだ、と思った。
「中学二年生の秋ごろ、その人、引っ越しちゃった。知らない間に、家が空っぽになってた。お別れもできなかった。傷つけたまま。もう二度と会えないと思う。一生、ごめんねも言えない。傷つけたまま、私がぶつけてしまった言葉は、一生返ってこない。……それで怖くなったんだ」
「う、ん」
「私たち、言葉がないと、分かり合えないの。分かってるんだ。だけど、間違えた。それで、怖くなった。本当に、傷つけてしまったから。その人がいなくなってから、どうしてか分からないけど、全て、怖くなっちゃった。誰かに影響を与えてしまうこと。何も言わなければ、誰も、傷つけることがないと思った。心の距離を近づけなければ、いいんだって思ってた。この世界が、どうでもい、と思えることばかりであってほしかった。そうやって、怖がってばっかりいたら、人の意見に同意しかできなくなった。いつの間にか、なんにも断れなく、なっちゃった」
そんなときに、きっと、土砂降りの雨の中、影君と会ったんだ。
視界がぼやけてしまう。
黄色が滲む。影君のほうを見ることができなかった。どうにもならないことがある。取り返しのつかない過去がある。