きみは溶けて、ここにいて【完】




 その刹那で、影君の目から、透明のしずくが頬に滑り落ちていった。



 どうして、あなたが、泣くの。


 そう思ったのと、「ごめん」と彼の口がそう紡いだのはほとんど同時だった。



傘が、彼の手から、離れて地面に落下する。もう一度、「ごめん」と、唇が動く。彼の身体が雨に濡れていく。



「もう、これ以上は、……だめ、だ」

「なに、が」

「もう、いないんだ」

「へ、」

「ごめん。違う。今日は、……いつも、保志、さんが、学校で会っている森田陽なんだ。騙すようなことになって、ごめん。もう、影は、いない。消えたんだ」

「…………、」

「……保志、さんには、もう会えないと思う。……二度と、……会えないと、思う」




 そう言って、目の前の彼は、泣きながら笑った。雨に濡れて、涙を流したまま。


 頭が白くなっていく。



「え、」


 ああ、なんだ。



 私、間に合って、なかったんだ。
ひとつも、間に合ってなんてなかったんだ。



どうして、気づかなかったんだろう。
影君だと思っていた。信じ切っていた。



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