きみは溶けて、ここにいて【完】





―――影君は、もう、いない。



 彼は、そう言った。



 身体から力が抜ける。
傘を手放して、その場にしゃがみこんでしまう。



「うそ、だ」

「……本、当」

「もう、本当に、いないの?」



 うん、と言う声が震えている。



 目の前がよく見えなくなる。

雨のせいだ。違う。涙が、溢れてくる。



「……っ、私、結局、何も、返せなかった、の? たくさん、ありがとうって思って、いて、救われた、のに、好きだと言ってくれた、のに、……っぅ、また、会いたかった、のに、私、間に合わなかった? どうすれば、いい?」

「保志、さ、ん」



 息が、うまくできなくなってくる。泣きじゃくるしかなくて、胸が張り裂けそうなくらい痛くて、獣みたいな嗚咽が漏れる。




 言葉は、傷つける。言葉は、間違える。

 言葉は、言っても言わなくても、やっぱり、後悔ばかりを連れてくる。


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