きみは溶けて、ここにいて【完】
だって、覚えている。忘れられない。
控えめな眼差しも、恐る恐るという風に言葉を紡ぐ唇も、文子さん、と呼ぶ声も。
伝えられなかったことを後悔している。
それでも、前に進まなければいけなかった。
私たちは、留まれない。
どれだけ立ち止まっていても、
過去にはなれないんだ。
向日葵畑で、ありがとう、と言った森田君の笑顔が頭からずっと、離れなかった。
あれは、まるで、全ての秘密のピリオドであったんじゃないかって思うのだ。
久美ちゃんと遊ぶこともなく、家族でどこかへ出かけることもなく、夏のほとんどを部屋で過ごした。肌は日に焼けることもなく、ずっと、青白いままだった。
夏休みが終われば、
また、学校に行かなければならなくなった。
教室には、森田君がいるだろう。
もう一人を失った、完全な、彼だ。
私はどういう気持ちになってしまうんだろう。
受け入れているつもりになって、にこにこと上手に笑う彼を見た瞬間、泣きたくなってしまったら、どうしよう。
そういう不安を抱えながら、登校したけれど、状況は予想とは少し違っていた。