きみは溶けて、ここにいて【完】
「……夏休みに入る前の土曜日、十分、聞いた、よ」
「え、」
「森田君が、言ってた、でしょ。もう、私、大丈夫。……ちゃんと分かっているから」
そう言って、もういいんだ、と伝えるためだけの笑顔を頑張って作る。
そうしたら、森田君は、不可解そうに眉をひそめて、それから、首を横に振った。
どうしたのだろうと思って、
じっと彼を見つめる。
すると、躊躇うように彼の唇が震えた。
「………保志さんから手紙をもらって、保志さんと影が会うことになっていた土曜、」
「う、ん」
「俺、記憶ないんだ。何も、知らない」
「っ、へ、」
どういうことなのだろう。
言っている意味が、分からない。だって、あの日、森田君は、影君のふりをしていたと言っていた。
記憶が、ない、とは、
どういうことなのだろうか。