きみは溶けて、ここにいて【完】
まさか、と思う。
「森田君だ、って、言ってた、よ」
すると、森田君は、困惑した表情を浮かべたまま、また口を開いた。
夕暮れに、彼の顔の半分だけが照らされている。
「―――あの日は、俺じゃない。
保志さんと会っていたのは、影、だ」
ああ、と喉の奥で、息が漏れた。
「あの日、なぜか、入れ替われたんだ。久しぶりに、入れ替わった。だけど、あの日から、影の気配がひとつもない。だから、保志さんに、聞きたかった。少し、時間が経ってしまったけど、あの日、何があったのか、聞こうと思って、」
記憶が、頭の中を巡る。あの日の、彼。
自分は森田君だと言った、彼。
もういない、と言っていたはず、なのに。
ああ、とまた、喉の奥で息が漏れる。
ものすごい速度で、塗り替えられていく記憶。
「あの日、保志さんは、影と会ってたよな?」
どうして。どうして。どうして、と思う。