きみは溶けて、ここにいて【完】




 どうして、気づけなかったんだろう。

どうして、森田君だと嘘をついたのだろう。


最後まで、優しい、少し薄暗い湖みたいな瞳をしていた。そうだ。それは、影君だけの眼差しだ。

どうして、なのだろう。





「う、ん。会った。会っていた。……会えて、いたよ」



 あの日、私と影君は、会えていたんだ。

本当の、最後は、本当に、あれだったんだ。



それを理解した瞬間、目頭の奥にじんわりとした熱が生まれた。視界がぼやけていく。

だけど、わあ、と泣き出してしまいたいような心地ではなく、なんだか、気持ちは、穏やかだった。



「……そっかあ」



 涙が零れ落ちてしまう。


全部、伝わったということ。そのうえで、影君が森田君のふりをしたということ。自分はもういないのだと言ったということ。


あんまりの嘘だと思いながら、それは、きっと、影君の優しさのかたちでしかない。

それが分からないくらい、馬鹿ではなかった。


< 205 / 232 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop