きみは溶けて、ここにいて【完】
どうして、気づけなかったんだろう。
どうして、森田君だと嘘をついたのだろう。
最後まで、優しい、少し薄暗い湖みたいな瞳をしていた。そうだ。それは、影君だけの眼差しだ。
どうして、なのだろう。
「う、ん。会った。会っていた。……会えて、いたよ」
あの日、私と影君は、会えていたんだ。
本当の、最後は、本当に、あれだったんだ。
それを理解した瞬間、目頭の奥にじんわりとした熱が生まれた。視界がぼやけていく。
だけど、わあ、と泣き出してしまいたいような心地ではなく、なんだか、気持ちは、穏やかだった。
「……そっかあ」
涙が零れ落ちてしまう。
全部、伝わったということ。そのうえで、影君が森田君のふりをしたということ。自分はもういないのだと言ったということ。
あんまりの嘘だと思いながら、それは、きっと、影君の優しさのかたちでしかない。
それが分からないくらい、馬鹿ではなかった。