きみは溶けて、ここにいて【完】
「……嘘、つきだ。影君」
私は、今、その嘘を大切に心の中で抱きしめるしかなかった。
どうしてそんな嘘をついたのか分からないまま、そうするしかないのだと思った。
涙目のまま、森田君に視線を向ける。
森田君は、少しだけ悲しそうに眉をよせたまま、「泣かないでよ」と言う。
私は、首を横に振って、「悲しい涙じゃない」と返事をした。
「……私、好きだって言ったの、影君に」
「そっ、か」
「ありがとう、って言ってた」
「……そう」
「あの日は、それだけ、だよ」
ありがとう、って、それがたぶん、全てだった。泣きながら、少しだけ、頬をゆるめてしまう。
悲しいのに、温かくて、寂しくて、やっぱりまだ思い出にはできるわけがなくて、それでも、そのすべてが優しさに包まれているような気がして。
弱さではないのだと、あなたが必要なのだと、ちゃんと、影君に伝えることができていたのなら、もう十分なのかもしれない。