きみは溶けて、ここにいて【完】
保志さん、と名前を呼ばれる。
こくん、と喉仏が縦に動くのを、私は見ていた。
「やっぱり、俺は、怖い。これから、自分がどうなるのか、分かんないから。怖いってばかり思ってたら、なんか、幸せそうにしてるのも、疲れてきている」
あんまりうまく笑えない、と森田君は言って、目を伏せた。睫毛が、少し震えている。
もしかしたら、私よりも、森田君のほうが影君が消えてしまったことを受け入れられていないのかもしれなかった。教室の彼の様子がおかしかったのは、きっと、そういうことだ。
少しずつ、焦らずに、過去にしていく。
最終的には、誰にも粉々にできない、思い出にする。私も森田君も。
そうすることが、影君の願いなのだと思う。
私は、そのために何ができるんだろう。
今、目の前で、不安そうにする森田君に、
何をしてあげられるんだろう。
考えた末に、思いついたのはなんともシンプルなことで。