きみは溶けて、ここにいて【完】
教室では、うまく話せない。今でも私は、周りの目がいつも気になるし、誰かを傷つけることにも怯えている。
だけど、何もせずに、ありがとう、と言って、このまま、森田君の感情を置き去りにしてしまうことは、どうしてもしたくないと思った。
「……文通、」
「え?」
「……影君とね、ずっと、手紙の交換をしていたの。森田君は、知っていると思うけれど。……あのね、すごく、楽しかったんだ。だから、もし、森田君さえよければ、しばらく、また、続けてくれると、嬉しい」
忘れていくのではなく、記憶を重ねていく。
そうやって、折り合いをつけていけば いつか、森田君も大丈夫になれるのではないかと思うんだ。
怖い、と言っていた。
森田君にとっては、ずっと、恐れていたことが起きているのだから、そうだろう。きっと、今、彼のこころには、大きな穴が空いている。
そのまま、幸福の証明をし続けたら、いつか、本当に壊れてしまうんではないかと心配なんだ。
森田君は、しばらく瞬きを繰り返して考えるような素振りをしていた後、ゆっくりと頷いて、「分かった」と言った。