きみは溶けて、ここにいて【完】





「……ありがとう」

「俺のこと、影だと思えばいいよ」

「ううん、森田君は、森田君、だよ」

「でも、……保志さんは、影のこと、好きだっただろ」

「……うん。だけど、もう、いいんだ」



 だって、今、私の前にいるのは森田君だ。


影君の存在の消滅の傍で、この星に取り残されたままの私と森田君。首を横に降ったら、森田君は寂しそうに口角をあげて、「分かった」ともう一度言った。


 それからすぐに、森田君は腰をあげて、私の前に立った。見上げたら、「話したいことは、もう話したから」と言って、じゃあ、と手をあげられる。


頷いて、「ありがとう」と私も手をあげた。



 くるり、と背を向けて、森田君が遠ざかっていく。姿勢のいい後ろ姿。


そのまま、去っていくのだと思った。


 だけど、なぜか、数メートル先で立ち止まり、もう一度、花壇のところへ戻ってきた。



どうしたのだろう、まだ何かあるのだろうか。


少し身構えながら、座ったまま、首を傾げたら、「もう一つだけ、言わないといけないことがある」と、森田君は小さな声で言った。

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