きみは溶けて、ここにいて【完】




私の足元にしゃがみこんで、上目がちに見つめられる。

自信の欠片もないような表情で、
森田君は困ったように笑った。



「ごめん」

「……なに、が?」

「あのさ、俺、影を通して、……保志さんを好きな影の記憶を通して、保志さんを見ていた」

「………」

「最初は、本当は、イライラしてたんだ。なんで、こんなに、不器用に生きてんだろうって。わざわざ、不幸になろうとする。なんでだって思ってた。あくまで、保志さんが仲良くしているのは影であって、俺ではなかったから、顔には出さなかったし、知らないふりをしていたけど」

「う、ん」



 さらさら、と森田君の前髪が風に揺れている。


湖とは少し違う。瞳の中は、穏やかに燃えている。夕暮れのせいだ。

私は、じっと、森田君の声に耳を澄ましていた。



「だけど、大事にするんだ。いろんなことを。それを、知っていった。ひとつひとつを、大事にできるのは、傷つけたことがあるからだって、思った。ネモフィラ、影と見にいっただろ。影は、記憶を共有しないと思ってたけど、違って。嬉しかったんだろうな。こんなにも自分が、誰かと仲良くしているということを、影は、俺に自慢したかったのかも。愛なんて、終わる。恋なんて、虚しいものだって、ずっと思ってた。影も同じだったはずなのに、違っていった。それで、怖がりながら、一つ一つたくさん考えて、大事にする保志さんを、途中から、……俺も、見ていた」

「………っ、」


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