きみは溶けて、ここにいて【完】
生きていくしかない。
だけど、大丈夫でいたいね。
私たち、大丈夫でいたい、ね。
見せかけの大丈夫ではなく、
こころから、大丈夫になりたい。
どうしたら、いいのだろうか。
私は、少しずつ自分は前を向けていると思いながらも、まだ、影君にもらった手紙をいれた引き出しは、鍵をかけたまま開けられずにいた。
街角で花が揺れているところを見ると、ネモフィラを映していた湖のような瞳を思い出して、切なくなる。
泣いていた彼に、あのとき、私も涙を拭ってあげればよかったと後悔して、優しい嘘なんて見破ってしまいたかったと少しだけ思う。
今でも、影君にもらった言葉の数々は温もりを保ったままで、人と話すとき怖くなったら、“そんな簡単に、文子さんのことを、誰も嫌いにはなれない”という影君の声を脳内で再生させてしまう。
お守りのようなものだった。