きみは溶けて、ここにいて【完】
文通を続けるうちに、下駄箱に入っている封筒が分厚くなっていくのも、引き出しの中が窮屈になっていくのも、なんだかくすぐったくて、それに比例するみたいに、自分の便箋の減りが早くなっていくことが、少し恥ずかしかった。
人から、自分が必要とされている。
そう思って、浮かれてしまいそうになる度に、立ち止まる。
心の距離は近づけば近づくほど、棘を刺してしまう可能性も高くなる。
ハリネズミの針があたらないくらいの、ちょっと離れたところで手を振り合うくらいの、そんな関係でいなければだめなんだと自分自身に言い聞かせていた。
だけど、たくさん考えて、たくさん時間をかけて、手紙を書く行為に、私は、だんだんと楽しさを覚えるようにもなっていた。
互いの便箋の中のクエスチョンマークが、ひとつふたつと増えていく。途中から、そのことに私も影君も謝らなくなった。
クエスチョンマークがお互いを苦しめていないということを、慎重に手紙の中で伝え合ったからだと思う。