きみは溶けて、ここにいて【完】
影君は、どんな表情で、どんな気持ちでボールペンを握って、この手紙を書いたんだろう。
姿を想像したら、どうしても森田君の顔になって、うまくいかないけれど、それでも、影君の文字の微かな震えを、私は感じていた。
怖いけど、嬉しい。
その気持ちを、私も、最近抱いていた。
わかるんだ。それは、優しくない気持ちだよね。怪獣の傍で眠るような気持ちなんだよね。
違うかな。影君のは違うかもしれないけれど、やっぱり、私たち、似ていると思う。
誰かの存在に近づくとき、本当に怖いけど、嬉しく思えてしまうんだ。その気持ちに対して、ごめん、と思うところまで、似ている気がした。
封筒に便箋をしまって、自分の胸元に寄せる。森田君に、影君と仲良くなってと頼まれてから、ちょうど一か月ほどが経っていた。
私は、迷っている。
どうすればいいのか、わからなかった。封筒と心臓を合わせたまま目を閉じたら、すごく不安にもなってきた。
こんなにも勇気を出して、会ってみたいと書いてくれた人を、実際に会ったときにがっかりさせてしまったら、どうしよう。
身体を所有しているということは、森田君の姿をした影君と会うということになるのだろう。そうなったとき、もしも誰かに二人でいるところを見られて、勘違いされてしまったらどうしよう。
たくさんの薄暗い“どうしよう”で、呼吸が不自由になってしまう。