きみは溶けて、ここにいて【完】




 それでも、結局、断ることなんてできるわけがなく。


保志 文子は断らない。

そういうことではなく、影君がどれだけ勇気を出してくれたのかを考えたら断りたくないと思ってしまった。



 いつもより少し時間がかかってしまったけれど、会ってみたいという内容の手紙を受け取った四日後の放課後、了承の言葉に“隣街で会う”という提案を付け加えて、返事を出した。


その二日後に、約束の日と、待ち合わせ場所を決める内容の手紙が私の下駄箱に入っていた。

最終的な決定として、私と影君は、土曜に隣町の駅で待ち合わせることになった。



 手紙を通して、そういうやりとりをしている間も、森田陽君とは一切、目が合わなかった。

 

影君の手紙には、記憶を共有しているけれど、共有しないこともできると書かれていた気がする。


だから、影君と私が会おうとしていることを、森田君が知っているのかどうかは定かではなかった。

知っていたら、どう思っているんだろう。



 そもそも、今までの私と影君のやりとりをどれくらい把握しているんだろう。


当日も、最初は森田君としてやってきて、途中で入れ替わるのだろうか。影君である時、森田君はこの世界に存在していると言えるのだろうか。

それは、逆もしかりで。



 そういう具合に、会うということ以外にもたくさんの不安があって、ぐるぐると森田君と影君のことを考えていたら、あっという間に約束の日になってしまった。





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