きみは溶けて、ここにいて【完】
3. 無防備な感情
土曜の午前十時頃。
不安な気持ちとは裏腹に、空はすっきりと晴れていた。
隣町の駅の改札を出て、きょろりと辺りを見渡すと、切符売り場の隅に森田君らしき人を見つけた。
本当にいるんだ、というのが第一の率直な気持ちだった。
五分前に着いたけれど、彼はそれよりも早く来ていたみたいで、待たせてしまうくらいなら、もう少し早く着くようにすればよかったと、さっそく後悔してしまう。
気配を潜めるように壁に背を預け、じっと前を見つめている横顔を、少し離れたところで観察してしまう。
視力はそんなに悪いわけではない。
むしろいいほうだ。
彼の表情には、笑みがなかった。だけど、特徴的できれいな鷲鼻や、光を含んだような艶のある髪から判断するに、彼は、森田君で間違いはないだろう。
ただ、私はその人を“森田君”と呼ぶべきなのか、“影君”と呼ぶべきなのか分からなくて、戸惑っていた。
なんて、声をかければいいんだろう。
手紙のやりとりを続けるうちに、すっかりと信じ切っていたけれど、実際に会うとなると別で、なかなか近づくことができなくて。