きみは溶けて、ここにいて【完】
腕時計を確認すると、約束の時間まで三分を切っている。
彼の横顔を、少し離れたところでいつまでも見ているわけにはいかない。会うことを了承したのは自分なのだから、責任をもたなければと思っていた。
約束の時間に遅れる人間だと思われてしまうのも怖い。
意を決して、ゆっくりと彼の方に足をすすめる。改札の電子音が遠のいていく。
彼は、私に気づいていないのか、未だにじっと前を見つめていた。
どうしよう。もしかすると、私の顔を知らないのかもしれない。
残念に思われてしまったら、とまた違う不安がでてきてしまったけれど、足を止めることはできなくて。
「………森田、君」
恐る恐る、名前を呼んだ。森田陽君であっても、森田影君であっても、名字は同じだ。
声が、情けないくらい震えてしまって、ちゃんと届いただろうか、と、声に出してすぐに心配になった。
だけど、ちゃんと聞こえたみたいで、前だけを見つめていた、待ち合わせをした男の子が、ゆっくりと私の方へ顔を向ける。