きみは溶けて、ここにいて【完】
影君は、困ったように目を泳がせて、後ろ髪をかいた。
いつも教室で見ている綺麗な顔がそこにはある。
だけど、なんだか、教室にいるときよりも小さく見える。どうしてだろう。その原因を探っていたら、猫背だからかもしれないという結論に行き着く。
グレーのTシャツに、黒いスキニーを履いている。これは、どちらの趣味なんだろう。
頭の半分はこんがらがっていて、これが現実だとちゃんと理解しているもう半分で、彼の姿を瞳におさめたまま考えていたら、影君が、「……あの、」と言ったので、ハッとした。
黙ったまま、じろじろと見るなんて失礼にもほどがある。
最初から、感じ悪いことをしてしまうなんて。
だけど、どうしよう。何を話せばいいんだろう。天気がいいですね? 電車こんでいましたか? 待たせてしまってごめんなさい?
つまらないと思われたら、苦しい。
会って早々、がっかりされたら、怖い。
「……ごめんなさい」
どうすればいいのか分からなくなると、すぐに謝ってしまう。今日も、自分の癖は健在だ。
影君は、「……僕の方こそ」と言って、目を伏せた。