きみは溶けて、ここにいて【完】





森田君の顔が全然違う表情を作り、森田君の声がいつもの何倍も弱々しくて、瞬きの度に、ほんの少しの翳りが生まれる。

この不思議に、はやく慣れないと、なんだか影君を悲しませてしまうと思った。



 「文子さん、」と、か細い声に名前を呼ばれて、「はい」と答える。

影君が、私に恐る恐るといった風に一歩近づいてきた。



「……どこに、行きますか。 ごめん。そういうのも、決めるべきだったのに、僕は、たくさん候補を探したけど、決めきれなくて。勝手に決めるのもだめだと思ったから。……文子さんは、どこに、行きたい?」


 
行きたいところ。

隣町とはいえ、何度か訪れたことがあるし観光名所は把握している。

私も昨日たくさん調べた。

だけど、自分の行きたい場所が、影君とは違っていて、楽しくないと思われてしまうことを想像したら怖くなって、影君に任せよう、と無責任なことを思って眠ったのだ。




「………影君の、行きたいところに、行きたい。ごめんね、もしも、嫌だったら」

「僕の、行きたいところ?」

「うん」



 影君は、しばらく考え込んだ末に、頷いて、「……少し歩くけど、いい?」と私に尋ねてきた。


頷いて、歩き出す。



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