きみは溶けて、ここにいて【完】
駅を出てからも、なんとなく、影君の少し後ろをついていった。だけど、途中で、影君が歩幅をゆるめて私の横にきたから、それからは並んで歩くことになった。
春と夏の真ん中くらいの気温の中、ちら、と横目で影君を見る。
ぎゅっと唇を結んでいるのが、私にがっかりしているからじゃありませんように、と願う。
休日に、家族以外の人と出かけるのなんていつぶりだろう。
ありえない状況が重なって霞んでいたけれど、そもそも、誰かと休日に会うということ自体が私にとっては珍しくて。
久しぶりすぎて、感覚さえ忘れてしまっていた。
中学生ぶりだ。
横断歩道を二度わたると、少し街並みに緑が混じり始める。車通りも少なくなり、長閑な風景に変わっていく。
どこに向かっているのか、なんとなく分かってきた。だって、昨夜、調べたのだから。
少し勾配の強い坂道をのぼると、視界が色鮮やかに優しくきらめく。
緊張が、ほんの少し解けていった。