きみは溶けて、ここにいて【完】
影君が立ち止まったので、私も足を止めた。
「僕の行きたいところ、嫌だったら、ごめん」
そう謝る声に、首を大げさに横へ振った。
目の前には、一面のネモフィラ畑が広がっている。
淡いブルーの、花の海。
私は、こういう場所が大好きだ。昨日、観光名所を調べていて、一番行きたいと思った場所。
だけど、本当に、影君はここに行きたかったのだろうか。影君の好きなものは、トカゲとお蕎麦で、あんまりお花のイメージはない。
「……影君が、行きたかった場所は、ここであってる?」
嫌な言い方になっていませんように、と思いながら訪ねると、影君は小さく頷いた。
「文子さんの手紙に、花が好きだって書いてあったから。……僕は、ここに行きたかったよ。でも、もしも、ネモフィラは別に好きじゃないということなら、ごめん」
「ううん、すごく好きなんだ。……いろいろなお花がたくさんあるのもいいけど、同じ花が一面に咲いていると、嬉しくて。……影君、ありがとう」
お礼を言うと、影君は、ぎゅっと唇を噛んだ後、不意に顔の強張りをなくして、頷いた。
「よかった」
安堵したような影君の表情に、私までホッとしてしまった。