きみは溶けて、ここにいて【完】
今日も、勝手にお揃いの気持ちの一欠けらを見つけて、その分だけ、心を近づけてしまう。
そういう近づけかたは、きっと正しくなにのに。
この場に来て、ようやくお互いに、緊張が解けてきているような気がした。
美しいネモフィラの景色に助けられている。
私と影君は、ネモフィラ畑に沿うようにして続く細道を、並んで歩いた。
五月の風が、そよそよと肌を掠め、それがとても気持ち良かった。まるで海のようなのに、波よりも可憐に、ネモフィラは揺れている。
この場所に辿り着くまではお互いに全然話すことができなかったけれど、細道を歩きながら、少しずつ言葉を交わし合えるようになった。
手紙を何度も送り合っていたから、話し出してしまえば、予想以上に、会話を弾ませることができたんだと思う。
慎重に、慎重に。
それだけは、忘れずに、うっかり棘を口から放つことがないように。
そういう気持ちから生まれてしまう不自然な間も、途中で、あんまり気にしなくていいと思うようになった。
だって、影君のほうも、同じだったから。
躊躇いながら話す人。躊躇いのリズムが合うってこういうことなんだ、と少し嬉しくもなった。