きみは溶けて、ここにいて【完】
一番見晴らしのいい場所まで来て、一度足を止めた。空気を吸い込んで目を閉じると、隣で、息を吸う音が聞こえて、また頬がゆるんでしまう。
ちら、と隣をうかがうと、ぱちりと綺麗な目と視線がぶつかった。
影君は、思わずといった風に、ごめ、と言いかけて、口を閉じる。
きっと、ごめんってまた言おうとしたんだ。
しばらく、黙ったまま、私たちは一面のネモフィラを見ていた。
だけど、なんだか、言いたくてどうしようもないことが自分の中に生まれて、そっと音にしてしまう。
「……本当は、分からないんだ」
影君は、猫背のまま首を傾げて、私を見た。
優しい目をしている。薄暗くて、瞳の周辺が少し青っぽくて、海というよりは、誰にも知られていない場所にある湖みたいな目。
ねえ、森田君も、そんな目を、していたの?
なんて、そんなことは、今考えることじゃない。