きみは溶けて、ここにいて【完】
私は、影君をじっと見つめ、躊躇いながら、唇を震わせた。
「私も、人と話すことが苦手で、本当は、……誰かと近づくことも、苦手なんだ。怖がってるだけなの。怖い怖いって、ただ自分が傷つきたくないだけなんだ。だから、久、……友達にも、きっと、影君のアドバイスがなくても本当のことなんて言えなかった、かも。自分が、悲しくなることを、避けたくて、毎日、必死なの」
「そっか」
「……人を、傷つけたことが、あるから。怖いの。自分の言葉が、誰かに影響を与えることって、本当に、恐ろしくて、できれば、みんなとは、傷つけられないくらいの距離をあけて、いたい、」
「………うん」
「でも、あのっ、影君とこうして会えていることは、嬉しくて、あの、だから、今言っているのは、現実、ちがう、なんて言えばいいのかなあ、ごめんね、今も現実だよね、影君も含めてなんだけど、でも違うんだ、分からないけど、とにかく、……ああ、ごめん。だめだ、本当に、私だめで、うまく言えない、本当に、ごめんね、こんなに面白くない話、はじめちゃって、……ごめんなさい」
慣れないことをしているから、だめだ。
慎重に言葉にしていたはずなのに、取ってつけたような言い訳に失敗して、もう謝るしかないような気さえして、項垂れてしまう始末だ。
数秒、影君の表情を見ることができないでいたけれど、「……どうして、」と言う声が頭の上から降ってきて、恐る恐る顔をあげる。
「どうして、文子さんは、僕なんかに、そんな、自分の大切な苦しみを話してくれるの」
優しい目をしているから。
だけどそれは、身体的な特徴であって、影君だけのものではない気がして、森田君でもあてはまるかもしれないことを、理由として返すのはふさわしくないと思った。