きみは溶けて、ここにいて【完】
影君に話せてしまったのは、影君という存在を、信じるとか信じないとかそういうことではなく、未だに、現実から本当にほんの少しだけ浮いたところにいるものとしてとらえてしまっていたからかもしれない。
だけど、一番の理由は、違う。
影君が嫌な思いをしてしまったらと怖くなりながらも、口を開く。
「……似ていると、思ったから」
そう言ったら、影君は、僅かに驚いたよう表情を浮かべた。
「ごめんね。……いやだよね、私なんかと」
「違う。……僕なんかと、文子さんは似てないよ。何度も言ってるかもしれないけど、僕は、本当にだめだから」
「そんなこと、ないよ」
「そんなことあるんだ」と言って、影君は微妙な顔をした。
自信のかけらもない。マイナスの気持ちばかりを、私たちは吐き出してしまっている気がする。
にこにこと笑う森田君がいるところとは対極にあるような雰囲気を、ネモフィラに囲まれながら、私と影君はきっと共有しているんだ。