きみは溶けて、ここにいて【完】
4. 飛べない蝶々
影君と隣町で会った翌週。
教室で森田君の声が聞こえる度に、なんだか私は気恥ずかしい気持ちになってしまって、彼を視界に映すことすら、うまくできなかった。
張りのあるきらきらと輝いているような声が鼓膜に触れる度に、少し弱々しい控えめな声を思い出す。
授業中にだけ、油断して森田君の方に視線を向けてしまうと、背筋の伸びた姿が目に入って、猫背の彼は今、どうしているんだろうと考える。
そういうことを繰り返しているうちに、奇妙な寂しい気持ちが、胸に広がっていく。
影君からは(正確には、森田君が私の下駄箱にいれてくれたのだろうけど)、月曜の朝に手紙をもらった。
土曜のことを感謝する内容で、便箋の下には色鉛筆で控えめな青い花が描かれていた。
ネモフィラだ。
私は、何もかも夢じゃなかったんだ、と再確認して、返事にネモフィラの花言葉を添えて、森田君の下駄箱にいれた。
こうして、また、私と影君は秘密の文通をするだけの関係に戻った。