相思相愛マリアージュ(前)~君さえいればそれでいい、二人に家族計画は不要です~
「メス」
静かなオペ室に響く彼の凛とした低い声。
医者の彼は普段の彼とは全く別人。
妻の私は彼のオペする姿に惚れ惚れしていた。
彼は子宮切開を拡張していき、胎児を取り出す。
妊娠高血圧症候群は悪化すれば、母子と共に危険な状態となり、最悪、母子と共には死亡する場合がある。
普通なら外の世界に出された瞬間、元気な産声を上げるのに、胎児は泣かない。
胎児仮死の状態で生まれ、すぐさま奏弥さんの手によって蘇生術が施される。
私達は祈った。
何度味わってもこの緊張感は嫌いだ。
心の中で赤ちゃんに頑張れとエールを送り続けていると
ーーーーようやく赤ちゃんが産声を上げた。
オペ室を包んでいた緊迫した空気が喜びに満ち溢れる。
「おめでとうございます…赤ちゃんが泣きましたよ…性別は男の子です。田村さん、貴方も赤ちゃんもよく頑張りました」
奏弥さんはママになった田村さんに労いの言葉を掛けた。
どんなに忙しくても細やかな気遣いは忘れない。また、奏弥さんに赤ちゃんを取り上げて欲しいと思うママのキモチが良く分かる。
意識のある田村さんは涙を流して奏弥さんに礼を言った。
彼はまた一人の赤ちゃんをこの世に誕生させた。
そして、赤ちゃんのケアは私達に託された。