敏腕CEOは執愛で契約妻の初めてを暴きたい
ぴしゃりと撥ねつけた仁くんに、私は笑う。

仁くんは私が前野さんに騙されていたときも、私が自分で気づくまで教えてくれなかったのだ。

最近は甘い仁くんしか見ていなかったけれど、彼にはそういう冷静で合理的な一面がある。

「『厳しい仁くん?』」

「なんでもない。日本からの電話、大丈夫だった?」

「ああ、問題ない」

「……ねえ、仁くん……」

デッキの上で風に吹かれながら、私は仁くんを見上げた。

「なんだ?」

「さっき、私があの男の人にキスされそうになってヤキモチ焼いた?」

思いがけない質問だったのか、仁くんは面食らった顔をした。

自分でもいきなりなにを訊いているのかよくわからない。

「焼いた。当たり前だろ」

それでも仁くんは即答してくれた。

胸がキュンと締めつけられる。

「仁くんは私のどこが好き?」

不誠実な男性に遭遇したせいで、情緒不安定になっているのかもしれない。

私は仁くんの愛情がストレートに感じられる言葉ばかり求めた。

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