優しい幽霊さん

ミリさんは話すのをやめ、僕から顔を逸らす。数秒、肩を震わせていた彼女は顔をあげる。目は赤くなっているけど、顔は笑っていた。

「高校入学してすぐだったな〜。居眠り運転した車に轢かれて、そのまま脳死状態になっちゃったんだ。お母さんたちはね、「ミリの一部がこの世界のどこかで生きてほしい」ってあたしの心臓を君に提供することを決めたの。すごく迷って決めたんだろうな〜……」

ミリさんの瞳に涙が浮かぶ。僕がそっとハンカチを差し出すと、半透明な手がそれを素早く受け取り、顔を覆う。僕はそんなミリさんと、沈んでいく夕日を見ていた。

片方はまだオレンジの夕焼けが燃えている中、片方は暗くなって星が見えている。なんて幻想的で美しい光景だろう。こんなにも空を見て感動したのは生まれて初めてだ。

「ミリさん、空がすごく綺麗だよ」

あの時飛び降りていたら、この空は見えなかった。そう思った刹那、僕の手がミリさんに掴まれる。彼女は優しく笑って、口を開いた。

「生きてくれてありがとう。あたしはもうすぐ、天国へ帰らないといけない。だから言いたいこと言うね？」

「……うん」

「あたしね、あたしの分まで生きてほしいとか、そういうの言いに来たわけじゃないんだ。十代、二十代の一番の死因は自殺で、世界では四十秒に一人が自殺していると言われてる。だから、無理をして生きろとは言わない。でも……」