年下男子に追いかけられて極甘求婚されています

「さあ、なぎささん、行きますよ」

「は、はいっ」

愛莉ちゃんの見よう見まねで「失礼します」とご挨拶をし、お茶とお菓子を粗相のないようにそそそとお出しする。たったこれだけの作業なのに妙に緊張して手が震えそうになった。

コンビニでのアルバイトと事務作業経験しかない私は、こういったおもてなしをする仕事は初めてだ。

愛莉ちゃんはてきぱきと動き、お客様に可愛らしい笑顔を振り撒いている。愛莉ちゃんのまわりだけ穏やかな雰囲気が広がり、ただ機械的に接客をしている自分が情けなく思えてしまう。もちろん経験の差があることはわかっている。だけどそれだけじゃない。仕事に対する心意気が違うのだ。

私は何のために女将修行をしている?
女将さんに言われたから仕方なく?

その時、ふと肩を叩かれてそちらを見ると潤くんが心配そうな顔で私を見ていた。

「なぎ、大丈夫?」

「潤くん……」

そうだ、潤くんに心配をかけてしまってはいけない。私はこの女将修行をクリアして、潤くんとの幸せな結婚を手に入れるんだ。それに、潤くんの妻になるんだもの、こんなところでめげている場合ではないのよ。

「皆川さん、ここが終わったら二人で先に夕食行ってきて」

「はい、わかりました」

潤くんが指示を出し、愛莉ちゃんが慣れた感じで返事をする。ここが終わるというタイミングもわからないし、夕食行ってきての意味も分からない。だけど二人はまるで阿吽の呼吸のように息がぴったりだ。

モヤっとした気持ちが嫉妬なのかなんなのか、こんなところでそんな負の感情を持つべきではないと思っているのに、仕事に身が入っていない私は余計なことばかり考えてしまう。

愛莉ちゃんは若くて可愛くて仕事にも一生懸命でお客様にも愛されている。女将さんは本当は潤くんのお嫁さんには愛莉ちゃんみたいな子を求めていたんじゃないの?潤くんだって、年上の私なんかより若い愛莉ちゃんの方が話も合うしお似合いなんじゃ……。
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