年下男子に追いかけられて極甘求婚されています
***

「あついー。プール行きたいー」

「あら、今年は行かないの?」

「うーん、今のところ予定はないかなー」

リビングのフローリングに転がりながらはしたなくバタバタとバタ足をする。毎年夏には彼氏とプールに遊びに行っていた。今年の夏は、彼氏がいない。こんなことは初めてだ。結婚破棄されて以来、彼氏はできていない。母はそれをわかっているからそれ以上何も言わなかった。

「なぎさー。電話鳴ってるわよー」

リビングのテーブルに置きっぱなしの私の携帯がブルブルと震えている。転がったまま行儀悪く手を伸ばして相手も確認せずに「もしもし」と出る。

『なぎ?』

「っ!潤く……いたっ!」

携帯から聞こえた潤くんの声に驚いて慌てて起き上がろうと頭をあげたのだが、弾みでテーブルの側面に後頭部を派手にぶつけて鈍い音が響いた。

『なぎ?どうした?大丈夫?』

「あ~、ごめん。ちょっと頭ぶつけて。大丈夫大丈夫」

母が憐みの目で見つめているのに気づいて私はそそくさと自分の部屋に駆け込む。痛む後頭部と胸のドキドキが私の体を強張らせた。

「あーえっと、どうしたの?」

『うん、来週そっちに帰るから、なぎの予定を聞きたくて。どこか行きたいところある?』

「うーん……」

夏休みに会う一方的な約束はやはり実行されるらしい。断る義理もなく流されるままの私だけど、不思議と断ろうとする気持ちは生まれてこない。

「……プール行きたいなぁ。今年まだ行けてないから、潤くん付き合ってよ」

『プールね、わかった。俺のとっておきに連れてくよ』

「とっておき?」

『そう、とっておき。楽しみにしてて』

「うん!」

って、私ったら元気よく返事をしてしまった。まるで楽しみで仕方がないかのようなテンションだ。

「いや、そういうことじゃなくてさぁ……」

セルフツッコミをしながら自分の感情を確認する。モヤのかかったようなふわふわとした気持ちは自分でも捕らえることが難しい。

なんだかんだと悩みながらも、潤くんとのプールデートに向けて新しい水着を買いに行ってしまったのだった。

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