一夏だけじゃ、だめ。
自宅について、ドアを開けようとすると門扉の外から声を掛けられた。
俺の名前を呼ぶその声だけで、誰かなんて分かるけれど、心臓はドキッと高鳴る。
「この前貸してくれた漫画の続き借りていい? 気になって仕方ないんだけど」
「ん、いいよ。 入れば?」
「お邪魔しまーす!」
嬉しそうに門扉を開けて入ってくる彼女に思わず口元が緩みそうになるのを抑えながら、ドアを開けた。
本当にこいつは、警戒心というものを持ち合わせてない。
小学生の時から向かいに住んでいて、腐れ縁だからって、のこのこ部屋に上がってくる。
「珠璃、今日ひとりで帰ってきた?」
まだ両親は仕事でいない。
静かな空間の中、階段を上がるふたりの足音だけが響く。
「そうだけど、なんで?」
「帰ってくんの早いなと思ったから」