一夏だけじゃ、だめ。
集中して漫画を読む珠璃を、バレない程度に盗み見る。
扇風機をつけると、真っ直ぐな黒髪がサラサラと揺れた。
その横顔に思わず見惚れてしまうくらい綺麗で、高嶺の花だと言われるだけある。
「……なんで、別れたんだよ」
「…………」
「聞いてる?」
「……え、なんか言った?」
クリクリとした大きな瞳が一瞬だけこちらに向けられる。
俺が黙ったままでいると、不思議そうな顔で首を傾げて、また漫画に視線を戻してしまった。
ほんと、無防備すぎて嫌になる。
目の前にいる好きな子が「彼氏と別れた」なんて聞いて、普通でいられるほど大人じゃない。
珠璃には、中学生の頃からあまり長い期間途切れることなく彼氏がいた。
初彼は多分先輩だった。 ついさっき別れたと言っていた元彼は、俺と同じクラスのヤツだったはず。