君の言葉で話したい。
帰り道。
立ち寄った本屋で、
偶然初心者向けの広東語の本を見つけ、
手に取った。
発音のこと、声調のことが、
事細かに解説されている。

本人でさえ、
何故買ったのかわからないが、
鈴は本を購入し、
店を出た。

「あれ?鈴!偶然だな。」
漫画を買いに来たらしい蒼太と、
鉢合わせした。
悪いことをしたわけではないのに、
何となく決まりが悪くて、
本を背中に隠す。

「何で隠すんだよー。何買ったの。」
「別に…。」
「見せて。」
蒼太は鈴から無理やり袋を取り上げ、
中身を覗いた。
「広東語の本?」
俺も大学で少し勉強しているから、
わかるんだよねと、
得意げな顔をしたが、
すぐに怪訝そうな顔をした。

「でも鈴、中国語の講義辞退してたよな。
なんで今更広東語の本なんか…。」
「だから、別に何でもないってば。」
「…あのさ。」
前から言おうと思っていたけど、と、
前置きして、
蒼太は決心したように、
一呼吸した。

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