君の言葉で話したい。
全く伝わっていない。
幾度となく練習した渾身の広東語が、
届かなかった。
顔が熱くなる。

どうして普通に日本語で、
伝えなかったのだろう。

後悔の念が襲う。
ただ、どこか紫涵が羨ましくて、

雨泽に少しでも近づきたかった。
片言でも、同じ言葉を話したかった。

涙が頬を伝った。

「泣かないでください。」
雨泽はおろおろとしながら、
ポケットからティッシュを取り出し、
鈴の涙を拭った。

中国ではティッシュを持っている男は、
優しいって言われてるんですよ。
トイレに紙がないので。
軽口を叩きながら、
鈴の頭をそっと撫でる。

悔しい。
自分はどう頑張っても日本人で、
彼とは違うのだと、
現実を突きつけられた気がした。
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