俺がお前を夢の舞台へ
─ガチャン!
─バタン!


勢いよく玄関扉が開閉され、彩絢が飛び込んできた。


俯き、早足に階段を上ろうとしている。


「え…」


その目には涙が溢れていた。


「ちょっと…」


心配する美咲さんを振り払い、部屋に駆け込む彩絢。


「彩絢、どうかしたのか?」


「さぁ…。何も教えてくれなかったわ」


監督と美咲さんは戸惑いながらもそっとしとくことにしたのか、後を追うことはしなかった。


でも、俺はそれができなかった。


明らかに泣いていた彩絢を放っとけなかった。


こんな時間の外出だ。


何かあったに違いない。


外見の良い彩絢はよくナンパされる。


もしかしたら、その類いのことがあったんじゃないか。


そう思うといてもたってもいられなくて、彩絢の部屋に駆ける。


ノックしようと手を握ったとき、聞いてしまった。


“勇翔…っ”


嗚咽に混じって聞こえるアイツの名前を─。
< 113 / 434 >

この作品をシェア

pagetop