俺がお前を夢の舞台へ
野球を辞めて身体を大事にしろと口酸っぱく言っていたけど、いざ野球を辞めた蒼空を見ると、喪失感のようなものを感じる。


「…俺…諦めきれねぇよ。なんで俺なんだよ…って。身体がこうじゃなければ…って」


身体の向きを変えベッドの柵にもたれる。


蒼空の頬を伝った涙を見たくなくて。


見えない位置に逃げた。


「……どうしても甲子園に行きたかった。夢を夢で終わらせたくなかった。でも、もう無理なんだよな…」


震える声。


鼻を啜る音。


ただじっと聞いていることしかできなかった。


「この前、桜森と練習試合があった。…打てなかったし、投げれなかった。もう、無理だって悟った」


蒼空の口から出る“無理”は、他の人の言う“不可能”。


蒼空は周りが無理だって言ったことを何でも成し遂げてきた。


その蒼空が無理だと言った。


その意味の重さは計り知れない。
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