俺がお前を夢の舞台へ
「…えっと…久しぶり……」


彩絢が気まずそうなひきつった顔で入ってくる。


「これ…お花……。ここに置いとくね…」


オレンジ色の花が、暗い病室を明るくする。


何をする気も起きなくて、病室には何も置いていない。


そもそも、俺の趣味は野球以外に何もない。


その野球だって、今はもう関わりたくない。


野球に触れると、できない自分にもどかしさを感じるから。


…そんな本音、彩絢には話せない。


いつも何だって彩絢に話してきていたつもりだった。


だけど、病気になって思い知った。


彩絢には大切なことを話せないって。


プライドや心配が邪魔して何も言えない。


強がることしかできない。


謝らないといけない。


今後も本音で話せる気がしないし、病気について詳しい説明もできない。


何も話せないこと、話さなかったことを謝らないと。
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