あなたの写真が欲しくて……
私たちが事務所に入ろうとすると、後ろから制服を着た警察官が現れた。

駅員さんが呼んだのかな?

私たちは、そのまま事務所ではなく、駅前の交番へと移動し、さらにそこから人生初のパトカーで警察署に移動して事情聴取を受けた。

初めは、男性の警察官が、取り押さえた時のことなどを尋ねていたけれど、程なく女性の警察官がやってきて、痴漢行為の詳細を尋ねられ、スカートや下着の繊維などを採取された。

これと同じものが、犯人の手にわずかでも残っていれば、決定的な証拠になるんだそうだ。

結局、聴取は午前中いっぱい掛かってしまった。

篠塚さんは、もっと早く終わっていたみたいだけど、警察署のロビーでソファーに座って私を待っていてくれた。

「すみません。遅くなって」

申し訳なくて、私が頭を下げると、

「全然!
 堂々と学校をサボれるんだから、ラッキーだよ」

そう言って、笑顔を見せる。

「それより、新谷さん、お昼どうする?」

そう尋ねられて迷う。

どうしよう?

お弁当を持ってきてはいるけど、今から学校に行ってたら、昼休みは終わってる。

「もしかして、お弁当持ってる?」

「……はい」

私が答えると、篠塚さんはにっこりと笑った。

「俺も。
 どこか食べさせてもらえないか聞いてみよう」

私の中に警察署の中で食べさせてもらうという発想はなくて驚いた。

篠塚さんは、手近にいた警察官に声を掛けて尋ねる。

けれど、残念ながら答えはノー。

「残念。どうしようかなぁ」

篠塚さんは、顎に手を当てて考え込む。

「あの……、もし篠塚さんがよければ、お天気もいいですし、そこの公園でも……」

私は、警察署の前の公園を指さす。

そこは大きな噴水がシンボルになっている地元でも有名な公園。

「そうか! それも気持ちよさそうだよね。
 遠足みたいで楽しそうだし」

私たちは、公園に移動し、噴水の見えるベンチに並んでお弁当を食べる。

「ぅわっ! 小さっ!
 女子のお弁当だなぁ」

篠塚さんは、私のお弁当を見て驚きの声をあげる。

一方、篠塚さんは、大きな二段重ねのお弁当。
まるでガテン系のお兄さんのよう。

「それ、全部食べるんですか!?」

私が目を丸くして尋ねると、篠塚さんはやはり笑みを浮かべて、

「もちろん!」

と答えた。

「俺、柔道やってるから、少しでも体を大きくしないと!」

そう言って、篠塚さんは、大きなから揚げを頬張る。

「柔道!?」

驚いた私は、思わず声を上げてしまった。

だって、篠塚さんは、身長こそ高いものの、細身で、とても柔道をやってるようには見えない。

「ははっ
 俺、細いから柔道やってるようには見えない?」

あっさりと私の考えを見破る篠塚さんは、箸を止めることなく笑ってのける。

「俺、食べても食べても上にしか伸びなくてさ。
 ま、それはそれで、リーチが長くなるからいいんだけど、やっぱり筋肉は増やさないと勝てないからさ」

私が小さなお弁当を食べ終わる前に、篠塚さんは大きなお弁当を完食してしまった。

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