あなたの写真が欲しくて……
私たちは、お弁当を片付けると、1㎞ほど歩いて、さっきの藤代駅の次の駅に向かう。

人でごった返す藤代駅とは違い、ここは閑散として人が誰もいない無人駅。

基本的に私たちが通学に使うこの路線は、廃線直前の路線を第三セクターが受け継いで運営していて、駅員がいる駅の方が少ない。

電車の本数も、通学時間帯は1時間に3本あるけど、昼間は1〜2時間に1本。

だから、私たちはちゃんと時刻表で電車の時刻を確認して動かないといけない。

電車が到着する5分前に駅に到着した私たちは、ホームで電車が来るのを待つ。

すると、篠塚さんが思い立ったように口を開いた。

「新谷さん、連絡先を聞いてもいい?
 裁判になったら、また呼び出されるみたいだし」

照れ臭そうに早口で言い訳を付け足す篠塚さんは、さっきまでの余裕たっぷりの姿とは打って変わって、なんだか普通の高校生に見える。

「はい。いいですよ」

私はスマホを取り出して、篠塚さんと連絡先を交換する。

そうして、到着した電車で学校に向かう。

無人駅で降りて、学校まで、また1㎞、2人で取り止めのない話をしながら歩く。



遅刻して学校に行ってみれば、みんなが心配してくれる。

事の詳細を親しい友人たちに報告すると、篠塚さんが校内でも大人気の有名人だということを知った。

1年生の多くの女子が晃司先輩と呼び、何人も告白しては玉砕してるらしい。

それから、周りの女子が晃司先輩って呼ぶから、私の中でも自然と篠塚さんではなく、晃司先輩に呼び方が変わった。

全校集会では、晃司先輩は、毎回のように柔道の大会での成績で表彰されていた。

どうやら、私だけが彼の存在を知らなかったようだった。

そうして、私を助けてくれた彼に、特別な感情を抱くのにそれほど時間はかからなかった。



しかし、それで終わりだった。

その後、連絡先を交換したはずの晃司先輩から連絡が来ることはなく、学校でも全く何の接点もない。

ただ時々、電車で見かけて、ただ遠くから私が見つめるだけの日々が流れる。

あの痴漢騒動は、私の中に淡い想いを残して、決して実ることなく過ぎ去っていく。
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