あなたの写真が欲しくて……
「聡美ちゃん、あ、いや、あの、新谷さん」

うっかり呼び間違えた晃司先輩は、なんだかしどろもどろで、晃司先輩らしくない。

「新谷さん、明後日の土曜日、暇?」

明後日?

「はい、空いてますけど……」

明後日、何かあるの?

「ほら、七千円分、返さなきゃいけないから、一緒にどこか出かけないかな…と思って」

そんな……

「いえ、ほんとに私、七千円も返してもらわなきゃいけないほどのことは、何もしてませんから」

そんなにしてもらったら、申し訳なさすぎる。

「いや、違うんだ。その、七千円っていうのは、ただの口実で……」

えっ? 口実って……?

晃司先輩の様子が、いつもと違って、なんだかおかしい。

私が首を傾げると、晃司先輩は、コーヒーを一気に飲み干した。

「新谷さん、俺、あれからずっと新谷さんが気になってました。俺と付き合ってくれませんか」

「えっ?」

今、なんて……

「ダメ……かな?」

晃司先輩は、不安そうに私を見つめる。

晃司先輩が、私のことを……好き?

私は信じられなくて、何も返事ができない。

「そうか、そうだよな。
 ごめん、突然、変なこと言って。
 忘れてくれていいから」

そう言って、晃司先輩は席を立つ。

「今日は、定期を拾ってくれてありがと。
 助かったよ」

そう言うと、そのまま教科書が詰まったリュックを背負おうとする。

私は、慌てて呼び止めた。

「あの!
 土曜日、公園に行きたいです」

晃司先輩は、驚いたように視線を私に戻す。

「聡美ちゃん?」

「お金はいらないので、公園でのんびりお散歩とかしたいなぁって。ダメ……ですか?」

私は精一杯の勇気を振り絞って、今の想いを伝える。

晃司先輩は、首をブンブンと横に振るともう一度、リュックを置いて座り直した。

「ダメなわけない。全然、ダメじゃない。
 行こう、土曜日!」

晃司先輩は、嬉しそうに身を乗り出した。

「今、コスモス祭りをしてるって聞いたので、行ってみたかったんです」

私がそう言うと、晃司先輩はうんうんとうなずく。

「じゃあ、今夜、電話していい?
 時間とか決めなきゃ」

私はこくんとうなずく。

なんだか、胸の中がざわざわして、でもふわふわもして、不思議な気分。


それから、私たちは、電車を3本見送って、同じ電車に乗って帰宅する。


明後日は、晃司先輩とデート!

こんな嬉しいことってある?


そんなことを思いつつ、寝る前に私はふと気付いた。

私、ちゃんと付き合いたいってお返事した?

なんか、大事なこと伝え忘れてない?


よし!

土曜日!

ちゃんと言おう!

晃司先輩でも食べきれないくらいたくさんのお弁当を作っていって、ちゃんと好きって伝えよう!

そうして、コスモスの中で一緒に写真を撮らせてくれたら嬉しいな。

定期の小さな証明写真なんかより、ずっと素敵な笑顔の写真を。



─── Fin. ───


レビュー
感想ノート
かんたん感想

楽しみにしてます。

お気軽に一言呟いてくださいね。
< 8 / 8 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:38

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

ねことねずみが出会ったとき【佳作】

総文字数/5,778

絵本・童話9ページ

表紙を見る
"鬼"上司と仮想現実の恋

総文字数/146,428

恋愛(オフィスラブ)407ページ

表紙を見る
ヒーローが好きな私が好きになった人

総文字数/6,407

恋愛(オフィスラブ)7ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop