鵠ノ夜[中]
第五章 血塗れた一族

◆ 堕天の彼方に、君となら








「はは、君たちとは一度じっくり話してみたかったんだよね。

ほら、"あの"御陵嬢に仕えてる番犬だって、とある界隈では有名な話だよ?」



なぜ。──なぜ。

俺らはこんなところにいるんだろうと、慣れない王宮のような空間を見て、真剣に思案する。"和"を見慣れているせいで、余計に異空間。



遡ること10時間前。

昨日途中でキツい雨が降ってしまい、あまり長く入れなかったことを考慮して、香夢さんたちが午前中も海で遊べるようにプランを変えてくれた。



それに甘えて午前9時頃から、昼までの約3時間は昨日の大雨とは打って変わった快晴の下で海水浴。

そのあと、シャワーを済ませて車で帰る途中、昼ごはんは雛乃さん希望のローストビーフ丼になった。



そこからもう少しと帰ってきたところで、香夢さんが運転する車に乗っている、雛乃さんと和璃さんとはお別れ。

小豆さんの運転する車で御陵邸についたのは、今から約4時間前の話。



「……御陵嬢、ねえ」



そこまでは至って問題ない。

問題はそのあとだ。そのあと。




「小豆。わたし挨拶回り行かなきゃ。

あんまり長期間放っておくと、御陵のことなめられちゃうから。車出せる?」



「……雨麗様、つい先程旅行から帰宅したところですよね。

どうしてすぐに仕事を始めようとされるんですか」



「仕事してなきゃ落ち着かないのよー。

ただでさえあなたに禁止されて昨日は仕事持っていけなかったんだから、」



行くわよ、と強引に小豆さんを引っ張っていったお嬢が御陵邸からせかせか出ていったのが2時間前。

俺らは別邸で各々寛いでいて、その時は偶然、五人ともリビングに揃っていた。



いつの間に仲良くなったのか、雛乃さんから柊季のスマホに送られてきた旅行中の写真を眺めながら。

お嬢のかわいい写真ないかな、と胡粋と写真を探してた時に、外が慌ただしくなって。



「失礼します。

あの……八王子様という方からご伝言で、」



別邸のチャイムが鳴ったと思えば、組員からそんなふうに告げられる。

八王子? 八王子、八王子……ああ、あのいけ好かない王子様顔の男、か。



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