鵠ノ夜[中]



何度だって現実に打ちのめされて、現実を嫌って、現実に期待して、現実から目をそらして、現実と向き合って、そうやって俺らは生きていく。

現実の先にあるのが絶望で、もし現実の先に希望があるのだとしたら。



俺らはそれに夢を見られずにはいられないだろうから。



「そういや、お前さ」



「なにー?シュウくん」



「夏休み、終わってっけど。

……受験勉強、大丈夫なのかよ」



「え?なんの話?」



年相応にもどった表情が、柊季を見る。

柊季はそれを見て呆れた視線を寄越し、ヘルプを求めてきた。




「……本当に芙夏が高校受験に落ちたら、雨麗はどうするんだろうな」



「一人だけ実家に強制送還じゃね?」



「ちょっ……そこは勉強教えてやる、とか言ってよー!

ほんとに落ちたらぼくレイちゃんに合わせる顔ないよ!?」



あわてるその表情に、柊季とふたりで笑ったのが気に障ったのか、余計に頰をふくらませる芙夏。

盛り上がりには似つかわしくねえ深夜のリビングだけど。俺らの感情は、この瞬間、確かに同じだった。



「暇だったら手伝ってやってもいいけどな」



「暇じゃなくても手伝ってよー!」



行き着く先に希望がないのなら、足掻いてしまえばいい。

──燃え尽き、命すら手放す、その瞬間まで。



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