鵠ノ夜[中]
「あなたはさっき、あの子に誘われたって言ったみたいだけど。
……それはエンコーの話?それともお薬の売買?」
「薬……、でもわたしも、
あの子に何も知らされないまま、簡単に稼げる方法があるって教えてもらって、」
「途中で気づいたけど、同じように戻れないのね」
親が厳しくお金に困っていた女の子たち。
ましてや自分ひとりじゃ抱えきれなくなりそうなその悩みを、共有できる相手が欲しかったという気持ちは分からなくもない。
「お嬢。ごめんね、遅くなっちゃって」
扉が開き、雪深が女の子を気遣うようにしながら入ってくる。
それを確認した女の子たちはお互いにギュッと抱きしめ合うと、その瞳からぽろぽろと涙をこぼす。
たしかにエンコーは警察での補導対象になる。
けれど、そんな女の子たちに漬け込んでその不安を煽ることで犯罪を成立させるなんて、決して赦されることじゃない。
「……ふたりとも。
今、その封筒、預かってたりしない?」
「……ちょうど、昨日、」
いつものように売人から受け取った封筒。
それを今日また売りつける予定だったと、運良く持ち合わせていた女の子。バッグの中から出てきた封筒を受け取って、無造作に封を切る。
「……たしかに聞いてた通りね」
小さな袋に詰められた10個ほどのカプセル。
それを片手に2台目のスマホを操作し、耳に当てた。
『はい、小豆です』
「本当に運良く、持ち合わせてたわ。
このあと事務所に回す。……今どこ?」