鵠ノ夜[中]



「……悪いことは言わないから。

もうこれ以上、こんな方法で稼ぐのは辞めなさいね」



「っ、ありがとう、」



きっと、薬を渡していると気づいた時点でとっくに辞めたかったのだろう。

ふたりは何度もわたしにお礼を言ってその場でSNSを削除し、少し落ち着いてから帰っていった。



……これが手段として正解だったのかは分からない。

けれど、今はそう思うしか、方法がない。



「……さて。

今日はもう何もできないから、みんなで一緒に帰りましょうか。証拠も必要なかったわね」



わたしのやり取りを、ずっと口を挟まずに見てくれていた4人。

スカートについた埃っぽい汚れを払い落としながら言えば、彼等はそれに頷いてくれる。



荷物をまとめて音楽室に鍵をかけ、職員室に借りた鍵を返す。

それから裏門まで行って、いつものように車に乗り込んだあと。本来は家に帰る車を事務所に向かわせ、せっかくだからと彼等を事務所へ案内した時のことだった。




「お嬢……!」



「……なに、騒いでどうしたの」



なぜか事務所の中がとんでもなく騒がしい。

それになんだか嫌な予感がしながら、声を掛ける。



「まずいことになったかもしれません……」



「さっき、小豆さんが3人連れて現場に向かったんです。

予定時刻までは時間があるけど、先に張り込んでおきたいからって早々に出ていって、」



「ええ、わたしの指示よ」



「っ、でも着いたらそこにもう男はいて、」



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