鵠ノ夜[中]
"息をしていなかった"。
それを聞いた瞬間、ゾワッと身体が震える。……待って。いまなんて言った?もうすでに、息がなかった?ねえ、それじゃあ、小豆は。
「小豆からの連絡は!?」
「見て見ぬフリなんかできないって、小豆さんがサツに通報したって一応電話だけ……
でも俺らの立場的にも、麻取のことも考えたら、」
「っ、やられた……」
今日、わたしがあの子たちに接触することも。
薬を運良く手に入れたことも、きっと相手にバレてる。どこで?確かに学校で雪深とはとりを使って女の子たちに声を掛けさせたのは、迂闊だったけれど。
「ただ、小豆さんが確認したところ死因はやはりモルテの過剰摂取によるものだと思われる、と。
……だから、4人で居合わせた小豆さんたちが犯人だと疑われる可能性は低いと思います」
それでも。
……わたしが指示したことで、小豆たちを危険な目に遭わせてしまった。
「レイ、つまりそれって……」
「……モルテを配ってる、主犯が。
わたしの行動を先読みして動いてる」
おそらく今回ホテルで発見された遺体は、自殺なんかじゃない。何者かが殺害したんだろう。
……わたしのことを、陥れるために。
「……コレ。例の現物よ」
バッグの中から袋を取り出し、組員へと渡す。
ウチにもそうやってドラッグを研究してくれる解析担当がいるけれど、噂には散々聞くはずなのに中々モルテの現物を掴めていなかった。
これで少しは話が進むはずだ。
……少なくとも、含有物なんかは明確になる。
ふ、と小さく息を吐いて、一度落ち着きを取り戻す事務所に、わたしも落ち着きを取り戻す。
それからまた口を開こうとすれば、入口が開いて。