鵠ノ夜[中]







「……さて、そろそろ部屋にもどるわ」



なんとなく気乗りしなくて、いつもなら本邸で食べるはずの夕飯も、全員分を別邸に用意してもらって。

"ドーナツは夕飯後にすればよかった"なんて思いながら、夕飯を済ませたあと。各々リビングで好きに過ごす中、誰にともなく声をかけた。



「レイちゃん、かえっちゃうのー?」



「ええ、まだ今日納期の仕事もあるのよ。

……ありがとう。一緒にいてくれて」



その後、小豆から連絡はない。

そもそも事務所に顔を出さなければ、彼が余計なことに巻き込まれたことさえも、わたしは知らなかった。……いくら今は専属じゃないとはいえ、仮にも彼の主人なのに。



「それじゃあ、おやすみなさい。また明日ね」



夜ふかししちゃだめよ、と。

みんなにおやすみを返してもらってから、別邸を出る。




本邸の中を奥まで進み、自室でようやく制服から着替えると、すこし肩の力が抜けるような気がした。

ふぅ、とため息にも似た息を零して、お風呂にでも行こうかなと考えていたとき。



「雨麗様」



「……小豆?」



襖の向こうから聞こえた声に、はっと顔を上げる。

「失礼致します」と丁寧に襖を開けた彼は、いつもと何ら変わらない姿で。



「……、雨麗様」



後ろ手で襖を閉めた小豆が、なにか発するよりも先に。

彼に近づいてその身に腕を回せば、すこし困ったように笑って、わたしの頭を撫でてくれた。



「どうされました?」



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