鵠ノ夜[中]
「ああ、そうだ。
シュウ、明日の午後空いてない?」
「……空いてるのは空いてる」
「わたしとデートして」
「……、出掛けるって言えよ」
言い方で断りたくなるわ、と。
嫌悪感を隠そうとしないシュウに、あえて「デート」をプッシュしたら、ものすごく嫌そうな顔をしながらも「わかった」と言ってくれた。
「……女同士で行くような店は行きたくねーからな」
「行かないわよ、そんなの。
バーに付き添ってほしいだけだから」
バー?と。
オウム返しの柊季に、事情を説明しようと薄く口を開いたところで、後ろから抱きつかれて。──ふわりと、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
「お嬢。俺ともデート、しよ?」
「はいはい。……ユキ、香水変えたの?」
「ん。デパートで新しいの買った」
いい匂いする、と言えば、口角をあげる彼。
どうやら「女性に人気なのはこれ」とおすすめされたものを買ったらしい。道理で嬉しそうなわけだ。
「ユキによく似合ってるんじゃない?」
女の子にモテるし、と。
何気なく口にしただけで、決して悪気があったわけではないのだけれど。雪深はハッと「モテたくてこれにしたわけじゃないから……!」と言い訳してくる。